お久しぶりです。少し間が空いてしまいましたが、改めて当コラムにお付き合いいただければ嬉しいです。
いま、映画「ちはやふる-結び-」が絶賛公開中です。もう劇場で観てくださった皆さん、ありがとうございます。映画は2年前に公開された「上の句」「下の句」の続編という位置づけですが、3作目にもかかわらず、前2作以上の数のお客様に観ていただいているようで、感謝に堪えません。
映画「ちはやふる」シリーズでは、“独り”と“チーム”を、一貫して対照的に描き出しています。そこで出てくるキーワードが「つながる」。何かを成し遂げる時に、誰かと“つながる”ことはとても大切なことだと、映画が語りかけてくれますが、これはどの世界でも同じで、私たち漫画の世界でもあてはまることは多いです。
ということで、今回は「つながる」ということをテーマに、書いてみたいと思います。
漫画の世界での“つながり”といえば、漫画家さんが描いた作品を、読者の皆さんのもとにお届けする過程が挙げられます。漫画家→出版社→印刷会社→販売会社→流通会社→書店→読者、というのが大まかな“つながり”の流れです。
さらに、デザイナー、製版会社、電子書店など、まだまだかかわってくださる方は多いわけですが、すべてが一つにつながって、初めて作品は読者の皆さんのもとに届きます。私たちは、これをいつも心に留めながら、働いています。
そして、もうひとつの“つながり”は、描き手と読み手のダイレクトな“つながり”、いわゆる“イベント”ですね。皆さんにとっては、コミックマーケットやコミティアのような同人誌の即売イベントや、少年ジャンプが開催しているような大規模なイベントのイメージが強いでしょうか。東京ビッグサイトや幕張メッセのような大きな会場でのイベント、ですね。
私は、漫画業界に24年間も身を置きながら、そのような大きなイベントを主催する側に立ったことはありません。そもそも「BE・LOVE」は、ずっとイベントとはほぼ無縁で来た雑誌です。サイン会ですら、数年前まではほぼやったことはありませんでした。それは「BE・LOVE」の読者の皆さんが、日々仕事や家事、育児で忙しく、その合間に漫画を読むタイプの方が多く、イベントにそれほどプライオリティを置いていなかった、ということが大きかったと思います(決して、漫画に対して熱くないということではありません)。
私が編集者として、初めてサイン会というイベントに関わったのは、入社してから17年後、2010年のことですから、本当に最近(?)の話です。岩手在住の飛鳥あると先生がご当地・盛岡でサイン会をするということで立ち会いましたが、熱心な読者の方はもちろん、飛鳥先生の同級生との再会などもあり、全く人前に出るタイプではない飛鳥先生が喜んでくださったことがとても印象的でした。読者の方と直に触れ合うことが、これほど漫画家さんのモチベーションに関わることなんだと、実感した最初の経験でもありました。
その後、私は編集長になり、漫画家さんが嫌でない限り、サイン会のオファーをいただいた場合には、なるべく実現するようにしてきました。その裏には「BE・LOVE」の読者層の変容があります。2000年台後半から、徐々に読者年齢層の幅が広がり、雑誌を読むだけでなく単行本も追いかけたい、さらには作者の先生に直接感想を伝えたい、という読者さんが増えてきて、サイン会のようなイベントの必要性が高まってきました。
そんなニーズにはすべて応えていきたいですが、イベント自体は通常の“漫画を作る”仕事に比べ、人の数もかけますし、時にはお金もかかるということで、実現はそう簡単ではありません。特にサイン会やトークイベントの場合、漫画家さんは、慣れない場に緊張され、何日も前から当日の準備をしたり、プレッシャーと闘ったりと、いつもの執筆とは違う類の緊張を経験します。ですが、直接読者の皆さんと触れ合えるということは、他に代えられない貴重な経験だと、漫画家の皆さんは口をそろえておっしゃいます。今はSNSなどで読者の皆さんが漫画家さんと容易につながり、感想を届けられる時代ではありますが、直接会って向き合う機会というのは、それとは別モノとして、貴重でかつ刺激的なものですから(編集部にとっても、漫画家さんにとっても)。
「BE・LOVE」は、4月に『傘寿まり子』を好評連載中のおざわゆき先生のサイン会を控えています。ちょっとしたトークタイムもあるそうなので、皆さんぜひお出かけください。
さらに、描き手と読み手の“つながり”を創出するイベントについて、もう少し。
これを書いている今は、原画展「ちはやふるの世界」の準備が佳境です。
『ちはやふる』が今年で連載10周年という節目を迎えたので、作者の末次由紀先生にとってキャリア初の原画展を、東京・大阪・名古屋で開催する運びとなりました。東京は3月23日からスタートです。
「ちはやふる」の場合、作中に登場する滋賀県大津市、福井県あわら市、東京都府中市をはじめ、これまで全国各地で複製原画展をやらせていただきましたが、今回は「“原画”展」と呼ぶにふさわしく、生原稿、それも200点近くを展示します。壮観で、圧巻です。
皆さんの目に直に焼き付けてもらい、さらに写真を撮って記念にしてもらうことが可能に。“二度おいしい”のが、今回の原画展のポイントです。
原画からあふれでる作者の思いを、存分に感じていただける、まさに作者と読者をつなぐイベントとなりますので、東京には行けないという方には、このあとの大阪会場、名古屋会場にもぜひお出かけください。“つながる”ことから生まれる幸せや喜びを、映画からだけでなく、この原画展でも味わっていただけると嬉しいですね。
私が「ちはや」の映画を観るたびにパブロフの犬のように涙があふれてくるシーンが、「下の句」の終盤、広瀬すずさん演じる千早と松岡茉優さん演じるクイーン詩暢との熱戦の中での「つながれ~つながれ~」というモノローグの場面。仕事に迷った時には、あのシーン、あのモノローグを思い出して、作品の向こうにいる読者の皆さんを思い出すようにしています。あの映画に出ている若いキャストに皆さんに、いつも教えられ、励まされているんです。