10年無敗のかるたクイーン 勝ち続けるためのライフデザイン 楠木 早紀(競技かるた)

楠木 早紀(くすのき・さき) 競技かるた 1989年大分県生まれ。小学3年生のとき、いとこに誘われかるた教室に通うようになる。2005年、中学3年生で最年少クイーンの座を獲得。その後、2014年まで無敗のまま、10年間クイーンの座を守り続ける。2015年はクイーン戦を辞退。2016年には「平成27年度 文化庁東アジア文化交流使」として中国に派遣され、かるたを通した東アジアの文化交流に努めた。現在は福岡県の公立小学校の教員として活躍中。
楠木 早紀(くすのき・さき)競技かるた 1989年大分県生まれ。小学3年生のとき、いとこに誘われかるた教室に通うようになる。2005年、中学3年生で最年少クイーンの座を獲得。その後、2014年まで無敗のまま、10年間クイーンの座を守り続ける。2015年はクイーン戦を辞退。2016年には「平成27年度 文化庁東アジア文化交流使」として中国に派遣され、かるたを通した東アジアの文化交流に努めた。現在は福岡県の公立小学校の教員として活躍中。


少し前の記事ですが、永世クイーンの記事は多くないのでここで紹介します。



“畳上の格闘技”と称される競技かるたは、知・力・速の総合競技である。その競技かるたの世界で2005年から10年もの間、クイーン戦の出場を辞退するまで無敗の記録を伸ばし続けた女性がいる。彼女の名は楠木早紀。無敵の自分を作り上げるために、彼女が続けてきた練習法とは。(文・小島 沙穂 Playce)

藤原定家が選出したとされる秀歌撰、「小倉百人一首」を用いたかるたは、正月の遊びの定番だ。かるたのルールを統一し、伝統文化としての楽しみだけでなく、スポーツに近い形で競技かるたが取り組まれている。競技人口は、小学生から高齢者まで幅広く、全国100万人を超えるほどだ。

楠木 早紀(競技かるた)
楠木 早紀(競技かるた)

競技のルールはいたってシンプル。2人の選手が1対1で向かい合い、小倉百人一首100枚のうち25枚ずつの計50枚をそれぞれ自陣に並べ、読み上げられた札を相手より早くとっていき、自陣に札がなくなったら勝利となる。並べない残りの50枚は空札と呼ばれる使用しない札だが、読み手に読まれることもあるため、プレイヤーはない札に惑わされぬようにしなければならない。競技かるたは札を取るための反射神経とスピード、札の句と位置を正確に把握する記憶力、そして集中力の総合競技なのだ。

そんな競技かるたの最高峰ともいえる大会、名人・クイーン戦において、2005年、中学3年生で最年少クイーンに輝いた女性がいる。それが楠木早紀だ。彼女はその後も公式戦無敗記録を伸ばし続け、2015年のクイーン戦を辞退するまで、負けなしの絶対女王として圧倒的な強さを誇ってきた。

自らのプレースタイルを磨き
最強の自分に挑み続ける

クイーンの座を守り続けた10年間に関し、楠木は振り返る。

「私は常に勝ち続ける選手であり続けたいと思っていました。そのために、相手によって戦い方を変えるのではなく、ひたすら自分の力を高めることに専念しました」

相手を研究し、戦法を練る選手はたくさんいる。しかし、彼女はクイーン、つまり挑戦を受ける側である。対戦相手は楠木を研究し尽くすことができるが、彼女は挑戦者が決まるまで対策を練ることができず、準備できる時間も短い。それならば、誰が相手でも負けないように、自分のパフォーマンスの洗練に努めることにしたのだ。

「私は自分自身にどう挑戦していくかを大切にしています。自分の力を最高の状態にするにはどうすればいいかを考えて、常に最善の道を選択できるようにしています」

かるたは札を取るごとに一区切りがつき、テニスのラリーのような対戦相手との応酬がない。自分の場の札を相手より先に空にしてしまえば勝利を得られるかるたにおいて、相手より札を早く取り続ける力があれば負けることはない。もし負けてしまったときは、それは相手が自分を上回っていただけのことだと楠木はいう。

昨日の自分よりも強い自分へ
仮想の自分に打ち勝つ力

では、自分のパフォーマンスを極めるために、楠木はどのような練習を重ねてきたのだろうか。

「いつもの練習の中で、よいパフォーマンスで札をとれたときや気持ちのいい試合ができた時の自分をイメージします。その自分を仮想の対戦相手としてとらえ、”私”に打ち勝つにはどのように戦えばよいのか考えます」

理想の自分を作り上げ、そのイメージに自分を寄せる形で高めていくスポーツ選手は多いが、楠木はイメージ上の自分にさえ勝とうとする。

「ただ、自分を相手取るとすると、やりづらい部分もあります。例えば自分を評価するとき。他者と競うときは勝敗や取り札の数で評価できますが、自分自身に勝とうとする場合、評価基準をすべて自分に置く必要があり、成果が見えにくいのです」

そこで彼女は毎日の練習で細かく目標を立て、クリアできたかできなかったかを正確に評価できるよう努めた。

「複数のカメラを設置し自分のプレーを録画・分析して、客観的に見るようにしています。挑戦者の私と対戦相手の私と観戦する私、3人の自分が俯瞰的に練習を見ているイメージです。位置の意味で”多角的”ではありますが、自分の体力、札を取るスピード、持久力、音を聞き分け反応する能力などから自己分析を行い、練習を見る視点も”多角的”を意識します」

楠木は徹底的に自身を研究し、厳しく評価することを繰り返した。あらゆる方向から自分を分析することで、自分の得意なことや課題が見えてくる。次の練習はそこを重点に強化し、自らを高め続ける。自分で自分のことを理解できていないと、周りに惑わされて自分をコントロールできなくなってしまうのだと楠木はいう。

こうして、最強のクイーンは10年間無敗を誇り続けたのだ。

記憶は画像で覚え
必要なくなったら捨てる訓練

「私はイメージ化をとても大切にしています。競技中に札の配置を覚えるときも、画像として記憶しています」

自分か対戦相手いずれかがとった札は、そのイメージの中から完全に「消す」ことで、次の読み札への対応速度も変わってくる。

「全力で取り組み、よいパフォーマンスで取りに行った札は、相手に取られてしまったとしても、イメージからスッキリ消すことができます。一方、中途半端に迷いながら取りに行った札は、記憶からうまく消すことができず、引きずりがちです」

常に一枚一枚全力で取りに行くことで、体に「終わった」ということを叩き込むのだ。

この”全力”という言葉は、楠木の練習・試合ともに重要なワードであるようだ。練習のときでも150%の力で臨むという彼女のスタイルをもう少し詳しく見てみよう。

本番で100%の力を出すためには練習は短期集中、150%の全力で

選手時代、楠木は1日の練習を競技かるたの1試合と同じ約90分と決めていた。クイーン戦などの大切な試合前でも2試合分の180分にとどめた。

「性格上、長時間練習を続けるよりも、集中的に課題を一つクリアすることに専念した方が向いていると思います。1日に掲げる目標はひとつにとどめ、短時間に150%の力で臨むのが私の練習でした」

1日の練習の中で複数の目標を立てると、目的がぶれて集中しづらい。集中力の続く90分間みっちり練習することで、濃い練習ができるのだ。

選手を退いた今も、年に何度か全国各地の学校から依頼され、高校生のかるた競技者のもとに講演や指導に行くことがある。よく質問されるのは、「どうしたら試合で100%の力が発揮できますか」というメンタル面での質問だ。

試合当日は緊張や不安で精神状態は万全とはいいがたい状態。しかし、練習で150%の力を出すようにしていれば、本番でも100%の力が出せるかもしれない。だから楠木は練習でも手を抜かず、”全力”を意識する。

「練習のときからどれだけ”本気”で取り組めるかが重要です。体力やスピードの強化、札の記憶など、今日の練習は何のために行うのかをしっかり意識した方がよいでしょう」

ただ、時には長時間の練習も必要だと楠木は続ける。一般の大会の場合、1日に6~7試合こなすこともあり、長時間の集中を要する場合もあるからだ。

これらの練習で一つひとつ積み重ねたスキルは、地力となっていく。

「子どものころ、先輩選手たちの素晴らしいプレーを見て、真似をしてみましたが、基礎基本の部分ができていない状態では自分の力に落とし込むことはできませんでした」

テクニックを磨く前に、まず土台をつくる。幼い楠木はひたすら札の記憶練習やかるたの素振り、筋力トレーニングなどの基礎練習に励み、レベルアップを図った。

「私はかるたの基礎の練習を積み重ねてきただけで、何か特別な練習をしてきたとは思いません。野球であれば素振り、バスケットボールであればシュート練習、勉強であれば計算問題や漢字練習など、毎日コツコツ基礎を練習することが大切です。夢に向かうために、今日の自分がすべきことを考えてほしいです」

“次なる夢”教師として
子どもたちに伝えられること

彼女がかるたクイーンを退いたのは、10年という区切りを迎えて、教員というもう一つの夢も高めていきたかったからだ。小学校での仕事がもう少し軌道に乗ったら、楠木は再びかるたの世界に挑戦したいと語る。

「今は動画共有サイトがありますから、クイーン戦に出場したときの私の動画を子どもたちに見せるのは簡単です。でも、いつかかるたの世界に復帰して、私が再び夢に向かって歩む姿を動画だけではなくリアルタイムで子どもたちに見てもらいたいと思っています。リアルタイムだからこそ、私の頑張る姿が子どもたちの心に何かを残せると思うので」

楠木が子どもたちに挑戦してほしいのは百人一首には限らず、子どもたち自身が描く”夢”。幼い楠木が…

 

本文の続き、更に他の記事の閲覧はこちら(プロジェクトデザインオンライン)